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自閉症スペクトラム障害(ASD)とは

1943年に、レオ・カナーが早期幼児自閉症として発表したことに始まります。

自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害を広汎性発達障害としてきましたが、それらを1つの疾患として「自閉症スペクトラム障害」という診断名になりました。

スペクトラムとは連続体という意味。これらの疾患の間に特に境目はなく、むしろ重なっていることが多いので、スペクトラムという用語が使われています。

DSM-5における診断基準

以下のA,B,C,Dを満たしていること
A 社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点)
1 社会的・情緒的な相互関係の障害
2 他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の障害
3 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害

B 限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上)
 常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方
 同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン
 集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある
 感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心

C 症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。

D 症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。


Aに当てはまってもBを満たしていないような場合はASDではなく、社会的コミュニケーション症/社会的コミュニケーション障害となります。

DSM-IVでは、症状は3つ(1 社会性の障害、2 コミュニケーションの障害、3 反復的・限定的行動)とされていましたが、DSM-5では2つ(1 社会的コミュニケーションの障害、2 反復的・限定的行動)になりました。

診断基準Bの1つの症状として「感覚処理の障害」がプラスされました。この異常は視覚、聴覚、触覚、嗅覚、口腔感覚、味覚、温度感覚等の各種で生じます。

臨床的には過敏または鈍麻等、感じ方の程度でわかれる場合が多く、古くから特定音への嫌悪(聴覚過敏)、特定素材の着物の嫌悪(触覚過敏)、痛がらない(痛覚鈍麻)、偏食(嗅覚・口腔感覚・味覚過敏)等の様子がわかっています。

また、これらの第1次的な感覚処理に加え、高次な感覚処理の障害も生じていると考えられます。この異常は複数種の感覚処理時、特に主感覚の処理中に別種の感覚処理が加わった時に生じやすいです。

またASDの人は、知的障害や言語障害、ADHD、不安、睡眠障害、摂食障害、てんかん発作等を併存する場合が多いです。ASDの70%が何らかの障害を併存し、ASDの約40%に知的障害、40~60%に不安障害があります。

2018年で59人に1人で、男女比は4:1です。

ASDの原因

脳の機能障害が生じる一因として、遺伝的要因にプラス環境的要因が付加して発現します。
ASDの候補遺伝子として100あがっていますが、その変異が観察されているわけではありません。

ASDの人の脳は生まれた時はやや小さめ、2歳~5歳で容量が正常範囲を超えて大きくなり、その後鈍化して成人段階では定型発達と変わらなくなります。

幼児期の脳の容量の増大は前頭葉、側頭葉、頭頂葉の高次機能を司る領域で起こり、このことは、複数の領野を結びつける神経回路形成の失敗を意味しているのではないかと考えられています。

心理検査

スクリーニングテストAQは、自閉症スペクトラム障害の心理検査です。自閉症スペクトラム障害の傾向がみられる場合や本人が疑いを持っている場合に実施することで、数字によって客観化できます。得点範囲は0~50で、33点以上がASD群となります。

※33点以上であっても、12%は偽陽性(ASDではないのに検査で陽性になる)を生む計算になります。よく色々なことを考慮してASDの判断を行うことが大切です。

年齢ごとの特徴

ASDの様子は年齢、成長とともに変わります。症状の程度は個人差が大きいです。

ASDでよくみられる様子(発達段階別)

発達段階
様子
乳児期
(0歳~1歳)
視線を逸らす・あまり顔を見てこない・後追いをあまりしてこない(対人選好)、親が視線を向けている先に視線を向けない(共同注意)、抱っこした時、しっかりとしがみついてこない(重い感じがする)、社会的微笑が少ない(情動の共有)、1歳頃、数語を話さない(知的障害のない自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもでも言語発達の遅れのあることが多い(小学校就学前には、catch upする))。
幼児期
(1歳~小学校就学前)
(1)周囲にあまり興味を持たない傾向がある
視線を合わせようとしない。他の子どもに興味をもたない。一緒に遊ぼうとしない(物刺激などからの視覚的注意の停止・切り変え)、名前を呼ばれても振り返らない、興味のあるものを指さし、人に伝えようとしない(叙述の指さし)。主体的に大人と共同遊びをせず、受動的に遊ぶ(情動の共有、人刺激への反応)。
(2)コミュニケーションを取るのが困難
知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害のある子どもは、言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられる(即時性エコラリア、遅延性エコラリア)。会話においては、一方的に言いたいことだけを話したり、質問に対してうまく答えられないなどの様子を見せる(適切な相互作用の困難)。定型発達の子どもが友達とのごっこ遊びを好むのに対し、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもは、ごっこ遊びやふり遊びに興味を示さない(表象の障害)。
(3)強いこだわりを持つ
興味のあることへの同じ質問を何度もする。つまり、結果がわかっていることを何度も繰り返す(結果ではない方法・手続きへのこだわり)。また、日常生活においてこだわりを持つことが多く(物刺激・人刺激に関わらない複雑な刺激下での反応)、違ったり、遮られたりすると混乱する・パニックになる。
児童期
(小学校就学~卒業)
(1)集団になじむのが難しい
年齢相応の友人関係のないことが多い。周囲にあまり配慮せず、自分の好きなようにものごとをしてしまうことが多い(心の理論)。人と関わる時は何かしてほしいことがある時が多く(要求機能)、基本的に1人遊びを好む。人の気持ちや意図を汲み取ることを苦手とする(心の理論)。
(2)臨機応変に対応するのが苦手
ルールが具体的に決められていることを好む。場面に応じて、対応することが苦手である(実行機能、注意の停止・切り替え)。
(3)どのように・なぜといった説明が苦手
言葉をうまく扱えず、単語を覚えても意味を理解することが難しい(意味理解・概念化)。また、自分の気持ちや他人の気持ちを言葉にするとか、想像したりするのが苦手である(心の理論、推論)。また、問いに対する説明がうまくできないこともある(問題解決)。
思春期~成人期
(小学校卒業~)
(1)不自然な喋り方をする
抑揚がない、不自然な話し方が目立つ場合がある(音韻機能、情動)。
(2)人の気持ちや感情を読み取るのが苦手
コミュニケーション能力が低く、人が何を考えているのかと考えるのを苦手とする(高次の心の理論、想像)。
(3)雑談が苦手
目的の無い会話をするのが難しい(語用機能)。
(4)興味のあるものにはとことん没頭する
物事に強いこだわりをもつ。そのため、興味のあることに深く没頭する。その分野で大きな成果を上げられることもある(創造)。

※自閉症の程度や生活年齢により様子はだいぶ違います。ASDの程度+他の障害程度により、ほとんどASDを感じられない人もいます。個人に対応した支援を考えることが大切です。

ASDの心理学的理解

1 心の理論・情動の共有の障害
 心の理論とは、他人の思考や感情を想像する能力。人は周囲の世界を理解し、そこで何が起こっているかを具体的(観察できる他人の行動)ではなく抽象的(背後にある意図、願望、希望、感情)にとらえる。
 つまり、他者の信念を推定することと、他者のある行動の動機・信念を推測し、その推定に基づいて他者の次の特徴を予測することを他者理解とした時に、ASDの人はその能力が制限されている。原因としてはミラーニューロンのシステム障害によるとされています。

2 中枢統合の障害
 中枢統合とは、多様な情報から中心部的で主要な情報や課題を選択時に取り出し、より高次の意味や概念にまとめあげる能力。ASDの人は、「全体と部分との関係がとらえにくい」「重要でない部分に過剰に集中する」の問題が生じます。

3 実行機能の障害
 実行機能とは、計画を立て、その目的を達成するため1つの戦略を維持する能力:作業用短期記憶の働きです。つまり、目先の欲求を後回しにすることができない。障害の程度が重度であると、課題遂行の状態が極めて悪くなると考えられます。

4 手続き学習
 手続き学習の内容、実用的技能の検索に重度の障害があることが多い。

ASDの人への支援

1 社会的コミュニケーション・相互作用の欠如と常同反復的な行動・興味と併存的な症状の低減
2 学習能力の促進と適応行動スキルの獲得の最大化
3 機能的スキルを妨害する問題行動の低減

学校において、上記1~3の方向性のために、その行動が表れた時にその前後を考えます。
つまり、避けるべき行動が起こる前に何かがあり、本人のその何かに対する反応のために結果良くない反応が起こっていると考えます。
その悪循環を本人に気づいてもらい、生徒と共同で、気づきからその行動の低減に向かう過程を学習してもらいます。

例えば、なぜ規則正しく学習習慣が得られないのか。学習をできない環境があって、本人がする気があっても学習ができない。そして学習しないから余計に学習したくなくなる。その改善に向けて共同でより良い方向になるように探っていきます。

そのために学習法、家での環境、本人の学習進度とその早さ、理解のくせ、学ぶための心構え、準備、行動学、様々な角度から探ります。


  • 優先順位をつけることが苦手だったり、忘れやすいところがあります。 メモをとる習慣をつけ、やることの見える化をする。 やることを短期・中期・長期に分け、コルクボードに貼り付けるなど、 日々の生活を効率的に過ごせるように指導しています。 また、そこに緊急な用事ができたときは、その事から始めるようにします。

  • 口頭指示は理解が難しい場合があるので、文字で残る形で指示します。また、本人にも復唱して確認する習慣をつけてもらうようにします。

  • 社交上など、挨拶、アイコンタクトなどはすること。話したくない時でも円滑な人間関係に必要なスキルは身につけてもらうようにしています。

  • 行動しながら考えるようにすることが大切です。

  • 人間関係などが上手くいかない時、小さなノートに状況を記入してもらい、どうしてそうなったのかを考えます。
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